【寝たきり予防】要介護1-3の方のための在宅トレーニング完全ガイド|自宅でできる無理のない運動法
「最近、親が椅子から立ち上がるのに時間がかかるようになった」
「このまま体力が落ちて、寝たきりになってしまったらどうしよう」
要介護認定(要介護1〜3)を受けたご家族を持つ多くの方が、このような不安を抱えています。特に50代・60代の皆様にとって、ご自身の生活やお仕事と介護の両立は大きな課題であり、ご家族の健康維持は切実な願いではないでしょうか。
寝たきりを防ぐために最も重要なのは、「動ける機能を維持すること」です。そして、そのためには専門的な施設だけでなく、日々の生活の中での「在宅トレーニング」が大きな鍵を握ります。
この記事では、理学療法士監修のもと、要介護1〜3の方でも自宅で安全に取り組める寝たきり予防のための運動メニューをご紹介します。特別な器具は必要ありません。今日からリビングで始められる、優しく効果的なリハビリ方法をお伝えします。
なぜ「寝たきり予防」に在宅トレーニングが必要なのか?
高齢者の身体機能は、「使わなければ驚くほどの速さで低下する」という特徴があります。これを廃用症候群(はいようしょうこうぐん)と呼びます。厚生労働省の調査によると、寝たきりの原因の約40%は「転倒・骨折」と「高齢による衰弱」であり、適切な運動習慣があればその多くは予防可能とされています。
例えば、風邪で1週間寝込んだだけで、歩くのがふらつくようになった経験はありませんか?高齢者の場合、1週間の安静で約10〜15%の筋力が低下し、その回復には3〜4倍の時間がかかるという研究データがあります。つまり、「動かない期間」を作らないことが何より重要なのです。
デイサービスや訪問リハビリも非常に有効ですが、それらは週に数回、数十分の時間に限られます。残りの長い「自宅で過ごす時間」をどのように過ごすかが、寝たきり予防の成否を分けるのです。
在宅トレーニングの3つのメリット
- 生活リズムが整う:毎日決まった時間に運動することで、昼夜のメリハリがつき、認知機能の維持にも良い影響を与えます。
- ADL(日常生活動作)の維持:トイレに行く、着替える、食事をするといった動作に必要な筋力を直接的に鍛えることができます。
- 家族のコミュニケーション:「今日は調子どう?」と声をかけながら行う運動は、身体だけでなく心のケアにも繋がります。
【要介護度別】無理なく続けるためのポイント
一口に「要介護」といっても、状態は様々です。無理な運動は怪我のもとですので、状態に合わせた目標設定が重要です。
| 要介護度 | 身体の状態の目安 | トレーニングの目標 |
|---|---|---|
| 要介護1 | 立ち上がりや歩行に一部介助が必要だが、おおむね自立。 | 現在の歩行能力を維持し、転倒しないバランス感覚を養う。「散歩に行ける体力」を目指す。 |
| 要介護2 | 歩行や立ち上がりに支えが必要。排泄や入浴に一部介助。 | 移乗動作(ベッドから車椅子など)をスムーズにする下肢筋力の強化。「トイレへ自力で行く」機能の維持。 |
| 要介護3 | 歩行が難しく、排泄や入浴などに全面的な介助が必要な場合も。 | 関節が固まる(拘縮)のを防ぐ。座位(座る姿勢)を安定させる体幹の強化。「座って食事をとる」ことの維持。 |
実践!自宅でできる寝たきり予防トレーニング
ここからは具体的な在宅トレーニングメニューをご紹介します。まずは椅子に座ったままできる安全な運動から始めましょう。全部やる必要はありません。ご本人の体調や要介護度に合わせて、2〜3種類を選んで続けることが大切です。
⚠️ 運動を始める前の安全チェック
- 本人の体調は良いですか?(熱はないか、顔色は良いか、血圧は安定しているか)
- 椅子は安定していますか?(キャスター付きは避け、滑らない場所に設置)
- 周囲に障害物はありませんか?
- 痛みが出たらすぐに中止してください。
1. 座ってできる足踏み運動(腸腰筋のトレーニング)

歩行時に足を持ち上げる筋肉(腸腰筋)を鍛え、すり足やつまずきを予防します。
【手順】
- 背もたれに寄りかからず、椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばします。
- 手は椅子の座面をしっかり持ち、身体を支えます。
- 片方の太ももを、お腹に近づけるようにゆっくり上げます。
- ゆっくり下ろします。これを左右交互にリズミカルに行います。
※ 目安:左右各10回 × 2セット
※ 太ももが高く上がらなくても大丈夫です。本人のペースで「動かすこと」を重視しましょう。
2. 膝伸ばし運動(大腿四頭筋のトレーニング)

太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)は、立ち上がり動作に不可欠な筋肉です。膝の痛みの予防にも効果的です。
【手順】
- 椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばします。
- 片方の膝をゆっくり伸ばし、つま先を天井に向けます。
- 太ももに力が入っていることを意識して、3〜5秒キープします。
- ゆっくりと下ろします。
※ 目安:左右各5〜10回 × 2セット
※ 膝を完全に伸ばしきることが難しい場合は、痛みが出ない範囲で行ってください。
3. 机や手すりを使った「かかと上げ」(下腿三頭筋のトレーニング)

要介護1・2の方で、立位が安定している場合におすすめの運動です。ふくらはぎの筋肉を鍛え、歩行の安定性を高めます。必ず頑丈なテーブルや手すりを持って行ってください。
【手順】
- テーブルや手すりの前に立ち、両手でしっかりとつかまります。
- 足は肩幅くらいに開きます。
- ゆっくりとかかとを上げ、つま先立ちになります。
- ゆっくりとかかとを下ろします。
※ 目安:10回 × 2セット
※ バランスを崩しやすいので、ご家族が横で見守るか、すぐに支えられる位置にいてください。
4. 座ってできる「お尻歩き」(体幹・骨盤底筋のトレーニング)

座位が安定している要介護2・3の方におすすめ。体幹を強化し、座る姿勢の安定性を高めます。骨盤底筋の強化にもつながり、尿失禁予防にも効果的です。
【手順】
- 床やベッドに足を伸ばして座ります(長座位)。
- 背筋を伸ばし、両手は胸の前でクロスします。
- お尻を交互に動かして、前に進みます(左右のお尻で「歩く」イメージ)。
- 同じように後ろにも戻ります。
※ 目安:前後に各5歩ずつ × 2セット
※ 転倒防止のため、必ず柔らかいマットやベッドの上で行いましょう。
5. 腕の上げ下げ運動(三角筋・上肢のトレーニング)

上半身の筋力も重要です。着替えや洗髪など、日常生活に必要な腕の動きを維持します。
【手順】
- 椅子に座り、背筋を伸ばします。
- 両腕を身体の横にだらんと下げます。
- ゆっくりと両腕を横から肩の高さまで上げます(鳥が羽ばたくイメージ)。
- ゆっくりと下ろします。
※ 目安:10回 × 2セット
※ 慣れてきたら、500mlのペットボトルを持って行うと負荷が増します。四十肩・五十肩のリハビリにも効果的です。
6. 深呼吸とストレッチ(柔軟性の維持)

筋力トレーニングだけでなく、柔軟性も大切です。関節が固くなる(拘縮)のを防ぎ、リラックス効果もあります。
【手順】
- 椅子に座り、鼻からゆっくり息を吸います(お腹を膨らませる腹式呼吸)。
- 口からゆっくり息を吐きながら、上半身を前に倒します。
- 両手で足首を触るイメージで、無理のない範囲で前屈します。
- ゆっくり起き上がり、背伸びをします。
※ 目安:5回程度
※ 運動の最初と最後に行うと、怪我の予防と疲労回復に効果的です。
💡 運動メニューの選び方
- 要介護1の方:1〜3番 + 5番(立位の運動を中心に)
- 要介護2の方:1〜2番 + 4〜6番(座位でできる運動を中心に)
- 要介護3の方:2番 + 4番 + 6番(安全性を最優先に)
【実例紹介】在宅トレーニングで改善された事例
「本当に効果があるの?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。ここでは、実際に在宅トレーニングを継続された方の事例をご紹介します(プライバシー保護のため、一部内容を改変しています)。
【事例1】Aさん(78歳女性・要介護2)の場合
状況:転倒による大腿骨骨折後、歩行が不安定になり要介護2に。トイレに行くのも車椅子が必要な状態でした。
取り組み:退院後、毎朝「膝伸ばし運動」と「足踏み運動」を各10回ずつ、3ヶ月間継続。娘さんが声をかけながらサポート。
結果:3ヶ月後には手すりを使えば自力でトイレまで歩行可能に。「自分でトイレに行けるようになって、自信が戻ってきた」とのこと。現在も継続中です。
【事例2】Bさん(82歳男性・要介護3)の場合
状況:脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺。座位は保てるものの、立ち上がりは全介助が必要でした。
取り組み:訪問リハビリの理学療法士の指導を受けながら、「お尻歩き」と「深呼吸ストレッチ」を週4回実施。
結果:6ヶ月後、座位の安定性が大幅に向上。食事の際の姿勢が良くなり、誤嚥のリスクも低下。家族の介助負担も軽減されました。
※ 効果には個人差があります。必ず医師やケアマネジャーに相談の上、ご本人の状態に合わせて実施してください。より詳しい事例はこちらの記事でご紹介しています。
効果を高めるための頻度とタイミング
高齢者の筋力トレーニングにおいて最も大切なのは「強度」よりも「継続」です。
- 頻度:週に2〜3回から始め、慣れてきたら毎日行っても構いません。ただし、疲れが見える日は休みましょう。
- タイミング:食後すぐは避けましょう。入浴前や、午前中の比較的体調が良い時間帯がおすすめです。
- 継続のコツ:「テレビを見ながら」「お茶を飲む前に」など、日常生活のルーチンに組み込むと長続きします。
【季節別】安全に運動を続けるための注意点
在宅トレーニングは一年を通して継続することが大切ですが、季節ごとに注意すべきポイントがあります。
🌸 春・秋(快適な時期)
- 運動を始めるのに最適な季節。無理のない範囲で運動習慣を確立しましょう。
- 窓を開けて換気しながら行うと、気分転換にもなります。
- 花粉症の方は、窓を開ける時間帯に注意してください。
☀️ 夏(熱中症に要注意)
- エアコンを使用し、室温は26〜28度を維持。
- 運動前後に必ず水分補給(コップ1杯の水や麦茶)。
- 午前中の涼しい時間帯に行うのがおすすめ。
- 汗をかいたら塩分補給も忘れずに(経口補水液など)。
❄️ 冬(ヒートショックに要注意)
- 部屋を事前に暖めておく(急激な温度変化を避ける)。
- 起床直後は避け、身体が温まってから運動を開始。
- 寒いと筋肉が硬くなるため、ストレッチを長めに行いましょう。
- 脱水になりやすい季節なので、水分補給を忘れずに。
季節の変わり目は体調を崩しやすい時期です。「いつもより疲れやすい」と感じたら、無理せず休息を優先してください。
専門家に相談すべきタイミング
在宅での運動は大切ですが、すべてを家族だけで抱え込む必要はありません。以下のような場合は、ケアマネジャーやかかりつけ医、理学療法士に相談してください。
- 運動中に痛みや息切れが強くなった場合
- 関節の動きが著しく悪くなった(拘縮が進んだ)と感じる場合
- 認知症の症状により、運動の指示が伝わらない場合
- ご家族(介護者)の腰痛や疲労が限界に近い場合
特にリハビリ特化型のデイサービスや訪問リハビリの利用を検討することも、有効な手段です。プロの視点が入ることで、自宅でのケアの質も向上します。
🩺 こんな疾患・症状がある方は事前に医師に相談を
- 心疾患(心筋梗塞、不整脈など):運動強度について医師の指示を仰ぎましょう
- 脳血管疾患(脳梗塞、脳出血の既往):麻痺の状態に応じた運動メニューが必要です
- パーキンソン病:転倒リスクが高いため、必ず見守り下で実施してください
- 重度の骨粗鬆症:骨折のリスクがあるため、負荷の少ない運動から始めましょう
- 変形性膝関節症:痛みが出ない範囲での運動が重要です
よくある質問(FAQ)
Q1. 毎日やらないと効果はありませんか?
A. いいえ、週2〜3回でも継続すれば十分効果があります。大切なのは「無理せず続けること」です。毎日やろうとして挫折するより、週3回を半年続ける方がはるかに効果的です。
Q2. 運動中に少し痛みがありますが、続けても大丈夫ですか?
A. 「心地よい疲労感」は問題ありませんが、「痛み」がある場合はすぐに中止してください。翌日も痛みが続く場合は、運動の強度が高すぎる可能性があります。かかりつけ医や理学療法士に相談しましょう。
Q3. 認知症があると運動は難しいでしょうか?
A. 認知症があっても、身体を動かすことは可能です。むしろ運動は認知機能の維持にも効果があるとされています。指示が伝わりにくい場合は、ご家族が一緒に動いて見本を見せる、音楽に合わせて身体を動かすなどの工夫が有効です。
Q4. デイサービスに通っているので自宅では何もしなくていい?
A. デイサービスでの運動は非常に有効ですが、週に数時間だけでは十分ではありません。デイサービスに通わない日も軽い運動を続けることで、筋力低下を防ぎ、寝たきりを予防できます。デイサービスで教わった運動を自宅でも続けるのがおすすめです。
Q5. どのくらいの期間で効果が出ますか?
A. 個人差はありますが、2〜3ヶ月継続すると変化を実感される方が多いです。「立ち上がりが楽になった」「歩くのが安定してきた」など、小さな変化に気づくことが継続のモチベーションになります。
Q6. 運動記録をつけた方がいいですか?
A. はい、記録をつけることを強くおすすめします。カレンダーに「◯」をつけるだけでも、達成感が得られ継続しやすくなります。また、ケアマネジャーや医師に報告する際にも役立ちます。
Q7. 要介護度が改善することはありますか?
A. 可能性はあります。実際に、在宅トレーニングと適切なケアにより、要介護度が改善した事例は数多く報告されています。ただし、改善を目的とするのではなく、「現在の機能を維持する」「生活の質を高める」ことを第一の目標としましょう。
まとめ:小さな「できた」の積み重ねが、未来を変える
「もう年だから仕方がない」と諦める必要はありません。東京都健康長寿医療センターの研究では、90歳以上の方でも適切なトレーニングを3ヶ月行うことで、平均20%の筋力増加が認められたと報告されています。何歳からでも、身体は応えてくれるのです。
今日ご紹介した寝たきり予防の在宅トレーニングは、どれもシンプルなものですが、続けることで確実に身体は応えてくれます。ご家族ができることは、完璧なトレーナーになることではありません。ご本人が安心して体を動かせる環境を作り、「今日も頑張ったね」と笑顔で声をかけることです。
私たち『リハビリで安心介護』は、頑張るあなたとご家族を心から応援しています。まずは今日、足踏み10回から始めてみませんか?その一歩が、これからの安心な生活へと繋がっています。
