訪問看護PT歴10年が教える!親の介護オムツ交換での腰痛を防ぐ完全ガイド

【現場からの警鐘】在宅介護の腰痛問題の深刻さ

毎日のオムツ交換で腰が痛い…これって仕方ないの?
こういった悩みは介護を日々頑張っている人たちから多く聞かれます
介護職でも腰痛は職業病といわれるほど、プロでも多くの人が腰痛に悩んでいて、なんと6~8割の人が腰痛があるという調査結果があります
しっかりと資格取得の勉強をしたプロの介護職スタッフでも腰痛になるぐらいなので、家で介護をしている家族が腰痛になるのはもはや当たり前といっても言い過ぎではありません
さらに、正しいおむつ交換の方法や体の使い方を教えてくれる人も身近にいるわけではないので、改善方法がわからず悩んでいる人は多くいます
腰は「要」(かなめ)という字が入っているように、体の中心にあり動きの要になっています
そんな大事な腰に痛みがあり、その痛みを放置し悪化させると最悪の場合、歩けなくなります
実際にリハビリの仕事をしていて、そうのような患者さんにお会いしリハビリをしたので決して大げさではありません
訪問看護ステーションに10年勤務、理学療法士歴14年で年間1000件以上のお宅に訪問している私が、その原因と具体的な対策について解説していきます
すぐ実践できるものばかりなのでぜひ参考にしてください
【医学的解説】なぜオムツ交換で腰痛になるのか?

理学療法士による3つの根本原因分析
「生体力学(バイオメカニクス)的要因」と「加齢による影響」といった視点から説明します
生体力学的要因
おむつ交換をするときによくとる姿勢といえは、前かがみですよね
実はその前かがみという姿勢は腰の負担がかなり大きくなる姿勢なんです
具体的にどれくらいなのかは過去の研究データを下の表にまとめたのでみてもらえればわかりますが、おむつ交換をするときのように少し腰を曲げた姿勢(30°腰を曲げる)は、まっすぐ立っている姿勢の1.8倍腰に負担がかかります
さらにベッドで寝ている人の腰を持ち上げようとしたりすると、2.2倍もの負担がかかってしまいます
前屈条件 | 腰部への負荷の変化 |
---|---|
約30°の前屈 | 約1.85倍(圧縮負荷) |
前屈のみ(立位比) | 約1.5倍 |
前屈+荷物保持 | 約2.2倍 |
座位+前屈+荷物保持 | 約2.8倍 |
傾き角度の増加に比例して負荷増加 | 具体的には角度に依存 |
加齢による影響
年々、歳をとれば筋力が落ちるのは当たり前のことです
過去の研究データをみると50-60歳では年1.5%もの筋力が低下するとされています
さらに体の水分量が減ってきたり、関節が硬くなってきたりといった変化も起こるため、より腰痛になるリスクが高くなるのです
訪問先でよくみる「危険な介護姿勢」ワースト3
①低く設定したベッドでの長時間前かがみ作業
少し前にお伝えしたように、前かがみ姿勢は腰の負担を大きくしてしまいます
瞬間的な前かがみであれば、腰痛につながることは少ないですが、オムツ交換は瞬間的に終わるものではありません
腰痛は持続的に腰に大きな負担がかかることでなりやすくなるのです
②片膝立ちでの体位交換
オムツ交換では、左右に寝返りをさせる介助が必ずあります
そのときに力が入りやすいようにと本人(被介護者)に近づこうとしてベッドに片膝を乗せ、前かがみの姿勢をとる人がいます
その姿勢は立っている姿勢より不安定でなので、しっかりと腰回りの力が入らず腰の負担を大きくしてしまうので注意が必要です
③腰椎を回旋させながらの汚物処理
近くの棚からオムツやお尻拭きを取ったりするときに、体全体で向を変えるのではなく、体だけをねじって少し無理な体勢をしてしまうことがありますよね
実はそれも腰の負担になってしまい、繰り返すことで腰痛を引き起こします
【PT直伝】身体に負担をかけない正しい介護技術

基本となる「セーフティポジション」
立位姿勢の基本
腰の負担が少なく姿勢は、骨盤を立てすぎず寝かせすぎずなポジションです
また腰が曲がりすぎたり、そりすぎたりする姿勢も腰の負担を大きくします
オムツ交換のときは骨盤が寝て、腰が曲がる姿勢をとってしまうことが多いので注意しましょう
チェック方法
正しい姿勢の簡単チェック方法をお伝えします
壁に背中をつけます
そのときに、
- 後頭部
- 肩甲骨
- お尻
- 踵(かかと)
以上の4点が壁につくようにしましょう
なぜ重要か
腰の骨が正しい位置(正中位)にあると、前かがみになったときに、腰全体に均等にストレスがかかります
ですが、腰が曲がった状態(後弯)で前かがみになると腰の骨や椎間板、腰椎後ろの靭帯(背中)に大きくストレスがかかってしまいます
過去の研究から、真っ直ぐ立っている姿勢と比べて、正中位で前屈みは1.5倍、後弯で前かがみはなんと2.2倍腰の負担が増えてしまうのです
その姿勢でのオムツ交換を続けるとギックリ腰や腰痛椎間板ヘルニアになってしまう可能性があります
オムツ交換は毎日何回も繰り返すことなので、正しい姿勢をとることが腰を守るためにとても大事になるのです
ベッド環境の最適化
適切なベッドの高さ
ベッドは基本的に本人が足をついて座れる高さ(32-40cm)にしている人が多いと思います
ですが、その高さでオムツ交換をしようとすると低すぎるため、腰を大きく曲げておむつ交換をすることになり、腰の負担がかなり大きくなってしまいます
そのため、オムツをするときはベッドをしっかりと高く上げるようにしましょう
高さの基準はあなたが肘を90度程度曲げて作業ができる高さです
作業スペース
訪問先でよくみかけるのですが、ベッド周りに物が多く、オムツ交換をするスペースが狭いことがあります
狭いと無理な姿勢で作業をすることになり、正しい姿勢を保ちづらくなってしまいます
目安としてベッド周囲60cm以上を確保するようにしてください
物品配置
新しいオムツやお尻拭き、陰部洗浄用ボトルなどは手が届きやすい位置に置くようにしましょう
ですが、近いからといって腰をねじって手を伸ばして取るのではなく、足を動かし体全体で向を変えて物を取るようにしましょう
オムツ交換時の正しい身体の使い方
【準備段階】
足位の設定
足は肩幅に開くことを意識している人は多いのですが、オムツ交換は横の動きだけではなく、前後の動きもあるため、前後にも少し足を開くようにしましょう
ですので、イメージとして「斜めに開く」と覚えておくといいと思います
そうすることで前後左右への動きに対し安定して体を動かすことができます
体幹の準備
前かかみになるときや力を入れる時は下腹部(おへそあたり)に力を入れましょう
そうすることで腰の骨や椎間板、靭帯などにかかる負担を筋肉が分散してくれるので、腰痛になるリスクを減らしてくれます
【体位変換時】
基本姿勢
前かがみになる時は股関節と膝関節を軽く曲げて腰にかかる負担を軽くしましょう
手の使い方
人は自分の体から遠いところにある物を動かすとき大きな力を必要とします
近いほど軽い力で動かすことができるので、被介護者との距離はできる限り近くになるようにしましょう
安定姿勢
より腰の負担を軽くするために、片膝をベッドにつけましょう
片膝をベッドにつけることで、支点ができ上半身の動きに安定感がうまれます
単純に下半身の支えになるため、足の負担も軽くなり、オムツ交換時の疲労も軽減できます
【作業継続時】
姿勢変換
被介護者のズボンや上着の崩れを直すときに足元や肩を向くことがあると思いますが、そのときは腰をねじって作業するのではなく、足の位置を変えて、作業する場所が正面にくるように向を変えましょう
多少面倒だと思うかもしれませんが、腰を痛めて辛い思いをするよりずっといいので、意識して動いてみてください
【作業完了時】
起き上がり
オムツ交換が終わって前かがみから真っ直ぐな姿勢になる時は、曲げていた股関節や膝関節を伸ばすのと一緒に体を起こすようにしましょう
絶対に腰から起こさないようにしましょう
【現場実証済み】PT推奨の腰痛予防プログラム

介護前の「3分間準備体操」〜1000人以上に指導した実績メニュー〜
ウォーミングアップ(1分)


オムツ交換前に骨盤を前後左右に動かして腰を動かしやすい状態にしましょう
体幹活性化(1分)

前かがみ時にお腹に力が入りやすくなるようにしましょう
動的ストレッチ(1分)

股関節と膝関節を軽く動かしてほぐしておくことで、オムツ交換時に腰のクッション役として働きやすくなります
介護後の「疲労回復ケア」
即効ストレッチ(2分)

腸腰筋は腰椎を安定させる働きがあり、前かがみになるときにとても頑張ってくれる筋肉です
この筋肉と次に紹介する大殿筋は腰痛の原因となることが多い筋肉なのでしっかりとケアしてあげましょう

大殿筋は腰や膝のクッションになってくれたり、腰椎や股関節の動きに大きくかかわります
オムツ交換時にもとても頑張ってくれている筋肉なので、しっかりケアしてあげてください
深呼吸(30秒)
オムツ交換は結構重労働で疲れる介助です
そのため深呼吸をすることでリフレッシュできます
4秒吸って6秒吐くようにしましょう
吐くことを吸うことより長くすることでリラックスすることができます
【PT厳選】現場で効果実証済みの推奨アイテム

理学療法士が自信をもって推奨する腰痛ベルト
10年間、多くのサポートベルトを患者さんと検証してきた中で、 確実に効果があったと言えるものをご紹介します
PT推奨1位:【腰椎コシビシベルト】
選定理由
ワイヤーでしっかり固定してくれるので腰椎が正しい位置をキープしやすいです
また骨盤周囲もサポートしてくれるので腹圧がしっかり高められるので骨や椎間板、靭帯の負担をかなり軽減できま
現場実績
このサポーターを使用した方21名中19名が「明らかに楽になった」といってくれました
専門的評価
サポーターのなかには固定力が強く、体幹の筋肉が働きづらくしてしまう物もあります
しかし、このサポーターはあくまでも体幹の筋肉の適切なサポートであって、働きを悪くはしません
使用感

圧迫感や動きづらいと感じることもなく安心感があります
体位変換の負担を劇的に軽減するグッズ
正直、先ほど紹介した腰サポーターとこのグッズを知るまでは介護者のスキルしだいだったので、どうしても腰痛になってしまう人がいて限界を感じていました
体位変換革命アイテム:体位変換サポートベルト
理学療法的評価
点ではなく面で支えることができるため、安定性が高めることができます
また寝返りさせたあと、持ち手にS字フックをつけてベッド柵につけると横向きで姿勢を固定することができ、両手で陰部洗浄やおむつ交換が安定して行えます
力学的効果
持ち手に力を入れることでベルト全体で被介護者を動かすことができるため、少しの力で寝返りなどの動きをサポートできます
実際の声

楽に寝返りされられるし、横向きで固定できるから両手で作業しやすくて助かります
【症例報告】実際の改善事例

Case1:田中さん(62歳男性、父親を在宅介護)
初回評価
腰痛NAS 8/10、前かがみになると腰痛が増強する
※NRSは耐えられない痛みを10としたときにどれくらい痛いのかを表す指標です
3ヶ月後結果:NAS 2/10

オムツ交換が苦痛じゃなくなった
介入内容
姿勢指導+腰サポーター+毎日の予防体操
腰サポーターを提案したところ、興味を持っていただいたので使っていただき、疲労を抜くために体操を指導しました
Case2:佐藤さん(55歳女性、母親の全介助)
背景
1日8回のオムツ交換で腰痛が悪化
成果
作業時間30%短縮と腰痛大幅改善
介入内容
体位変換サポートベルト+動作指導
この方はストレッチや準備体操をしたくないとお話があり、サポーターもつけることに抵抗があったので、体位変換サポートベルトとオムツ交換の動作指導をしたところ改善しました
【専門家Q&A】よくある質問への回答
Q1:腰痛ベルトへの依存は大丈夫?
PT回答:適切な使用であれば筋力低下は起こりません むしろ正しい動作学習に有効です
Q2:ストレッチしても効果を感じません
PT回答:伸ばす筋肉を意識することと、動かす方向を少し変えてみると筋肉がストレッチされる感覚がでてくると思います
Q3:腰痛が急に悪化した時は?
PT回答:動けなくなるほどの激痛や腰や足に電気が走るような痛みor痺れが出た時はすぐに整形外科を受診してください
くれぐれも痛み止めを飲んで痛みをごまかしてオムツ交換をすることはやめてください
続けると最悪の場合、歩けなくなります
【緊急時対応】腰痛悪化時の対処法
やってはいけないこと:痛み止めを飲んだり湿布を貼って痛みをごまかして、腰に負担がかかることをつづけないようにしましょう
神経に影響を与えて、痺れや力が入らなくなって歩けなくなってしまいます
レッドフラッグサイン:腰や足に電気が走るような痛みがあるときはすぐ整形外科を受診しましょう
安全な応急処置:まずは腰を冷やしましょう
痛めた直後は自己判断でのストレッチや筋トレは絶対にしないでください
【PT からのメッセージ】継続的な介護のために
介護は短距離走ではなくマラソンです
あなたの体を守ることが、結果的に最良の介護につながります
正しい知識と適切な道具で、持続可能な介護を実現しましょう